脱皮するプラタナス

掲載日:2012.08.12

家のまわりの歩道に、茶色い薄板のようなものが一杯落ちています。ジグソーパズルのような不定形で、少し丸くそっています。内側が明るい茶色でざらざら。外側はくっきり曲線で区切られた白っぽいベージュ色の濃淡柄。

これは、街路樹のプラタナスの幹からはがれおちた「樹皮」なのです。プラタナスの幹の特徴は、迷彩柄。グレーがかった薄緑とベージュ色のそれぞれの濃淡が、迷彩服のように入り組んだ模様をしています。

夏にその樹皮は、かぱかぱと模様なりにはがれ落ちます。蝶やセミが成長して形が変わる時には、脱皮せざるを得ないように、樹木も一回り太くなるときには、自ら脱皮するのでしょう。

脱皮?したての幹は初々しい薄緑色で、触ると少し柔らかです。

ところで、このプラタナスの脱皮について知るまで、長年不審に思っていたことがありました。それは古典的な夏休みの読書本、「トム・ソーヤーの冒険」の一節についての疑問。

19世紀後半のアメリカ南部、ミシシッピー川の流れる田舎の村の悪ガキ、トムが主人公です。トムは孤児で弟と共におばさんの家で暮らしています。

犯罪を目撃したり、好きな女の子にふられたり、ストレスが続く日々に嫌気がさしたトムは、悪ガキ仲間と家出します。いかだで川の中州の島に渡り、楽しくキャンプ生活を始めるのですが。ある日、蒸気船が空砲を撃つのを聞きました。それは水死人の捜索で、何と彼らを探しているのでした。

こっそりと村の偵察に帰ったトムは、悲しむおばさんに「自分は死んでいない。海賊になりたいだけ」と「スズカケの木の皮」に書いて伝えようとします。

「スズカケの木の皮?」幼い私は、それを経木と誤解してしまいました。経木というのは、紙のように薄く削った木で、昭和の昔、和菓子や肉を買うと、それで包んでくれたものなのです。

それにしても、なぜ肉屋もない川の中州にそんなものが?使用済みのそれが、川岸に落ちていたのか。随分と荒れた自然環境だなあ。と子供心にも、腑に落ちないことでした。

少し成長して、プラタナスの和名がスズカケである、ということを知り。さらに何十年か後、その木の皮は夏によく落ちているもので、手頃な大きさで、きめ細かな表面のそれは、チョークでメッセージを書き付けるによさそう、と思いあたったわけでした。トムの村でも、夏にはこの木が樹皮を落としていたのですね。

子供向けの本ですが、作者のマーク・トウェインはかつて少年少女だった大人にも読んで欲しいと願っているそう。夏休みの読書にいかがでしょうか?

*翻訳によっては、他の木の皮と訳されている本も。でも、私はこれは絶対スズカケが正解だと思うのですが。