人の樹

掲載日:2018.02.12

不思議であたたかで、ちょっと笑える小説の名人、村田喜代子さんによる、人間と樹木の物語集を読みました。木の知識モノではないのですが、木をもっと好きになることができます。

雑誌に連載されていた18の短編をまとめたもので、話は荒唐無稽ですが読みやすいです。

登場するのは、木と結婚する娘たち、前世が木であった男、世話になった森林組合長の通夜に参列する大樹たち、ロシアのタイガを歩き続けるカラマツたちやら、ただごとではありません。

その中から「みちのくの仏たち」をご紹介します。

場所は東北のどこかの、町立民芸館の伝統木工品の展示室です。登場するのは、古い木の民具たち。宮崎県日向出身のカヤの碁盤、クワの小簞笥、ツゲの櫛、クリの枕木。唯一若いのは、民芸館の裏の墓地に立つモミの卒塔婆。そして語り手は、薄板になって曲げわっぱに加工され、ご飯のお櫃(ひつ)になったスギです。

ほこりの上に薄日がうっすらと射す冬の休館日。昔見た事や、それぞれの知識や経験、ちょっとエッチな話などを語り合う長老たちと「こんな陰気な場所はいやだあ」とわめく卒塔婆のモミ。

そこへ新入り。片手がもげた汚い木彫りの地蔵さんが、やって来ました。「おい、お前はヒノキか?クスか?」と聞いたスギに「わしは地蔵菩薩じゃ、この身は如来じゃ」と威張りくさって答えます。

「相当イッテるなあ」と畏れ入り、長老たちは菩薩野郎と話すのをあきらめました。「おらあ、また森に帰って子供らと遊びてえ」と騒ぐ若いモミをなだめながら、話題は成仏するとはどんなことかというところに。

「わざわざ彫らなくても、そのままが仏だよ」と結論。うっとりするような木たちの思い出が語られます。ぜひ、人間もほのぼのと幸福感に包まれる最後のページを、読んでみて欲しいです。

家や生活の道具になってくれた樹木が、幸せでありますように。

☆村田 喜代子
『人の樹』 株式会社潮出版社 2016年