わがままな家
恵庭市 田内様
川の理由
「川に面した敷地を探していたんです」札幌中央営業所に勤務している田内はそう言った。
彼は昔のイギリス紳士のように川の風景が何よりも好きというわけではなく、また趣味が釣りやバードウォッチングだとかいうわけでもない。
ずばりその理由は「“雪”もちろんルール違反はしませんけど、河川敷には必ず雪捨て場になる場所があるのでとりあえず安心でしょ」
昨年の秋、たまたま紹介されたこの敷地は川に面しているだけでなく、前の道路がはば広く、また近くに小学校と消防署があって、付近の除雪は万全であろうことが予想された。
このきわめて現実的な条件を満たしていて、しかも川に沿って樹木の緑の多い土地はとても気に入った。
しかし、すぐに家を建てようと考えていたわけではなかった。
しかも、奥さんの智子さんはこの春に出産を控えた妊婦さん。そんな時にあわただしく土地を買い、家を建ててよいものか。さすがの田内も少し悩んだ。
二日悩んで決めた。その時には家の設計は完成していた。智子さんを連れていった。
「狭いな。これで家が建つのかしら」というのが智子さんの第一印象。
ただちにその不安は自信に満ちた営業兼設計者によって解消されたのである。
光あふれる
智子さんの希望は「一日中陽が入る家」といたってシンプル。
もともと南に向いた敷地で、しかも南側はさえぎるものはなにもない河川敷。難問ではない。大きな窓さえつければよい。
しかし、田内はもっと効果的に光を生かす方法はないかと考えていた。
表側の通りからは想像できない緑豊かで静かな風景、そしてゆるやかにカーブした川の流れ、そこの環境を太陽の光と一緒に感じながら暮らせる家にしたい。
田内はリビングを1階にした。
リビングにつなげて、外部を敷地いっぱいのウッドデッキにするためだ。リビングが川まで連続して広がっていく。もう一方の壁の部分は吹き抜けにして、2階まで縦に連続した窓をつけた。
太陽の動きにつれて、向きと角度を変化させながら一日中光が入る。家の外までつづく水平の広がりと縦にのびる光の変化を組み合わせたのだ。
吹き抜けの二階部分は階段ホールと寝室である。吹き抜けに面したオープンな寝室には一年中、朝日が差し込むことだろう。
実はこの延床面積の中で三坪近い吹き抜け分は少なくはない。その分、2階に床をつくれば小さな部屋ができるが、田内はあえてそうしなかった。
智子さんの唯一の希望への答えだった。
「売れる」 だから不安はない。 なぜ、ノームだったのか?
もともとノームは間口の狭い敷地のために開発されたプランだ。
この敷地は変形ではあるが、道路側の間口は一般的な宅地として、さほど狭いわけではない。
理由は趣味のバイク(ハーレー)と夫婦それぞれの車、計二台が道路に面しておけるようにしたい、という希望。
それには間口はやはり狭いのだった。
「ハーレーの隣にマスタングを並べるのが夢なんだよね」と語る夢見る田内。(これ以上、車はふやせないが?それとも田内よ、君はマスタングで出社するのか)
「当然、せっかくなので自由設計を、とも考えましたが、逆に企画プランでもこんなことができるんだ、というのを試したかった。これは売れると信じていたノームでやってみようと思った」とも。
チャレンジャー田内でもあるのだ。